「一人です」
たった四文字である。
だが、旅先の知らない居酒屋でこの言葉を発するとき、なぜかちょっぴり勇気が必要になる。まして中が見えないドアだったり…カウンターがあるのかも分からない。
やっと扉を開けても、
「一人ですけど、大丈夫ですか……?」
別に悪いことはしていないのに…なぜかこちらが謝るように確認してしまうことはあるんじゃないだろうか。
雰囲気的に4人掛けのテーブルのみや、大皿料理しか見当たらなかったりすると、「入ってもいいのだろうか……」と考える。
自分はこれまで、北海道や沖縄を中心に、旅先で何軒もの居酒屋へ一人で入ってきた。
昼から地元客が酒を飲む札幌の老舗酒場。1,000円を握りしめて挑む、沖縄のせんべろ。
一人用の刺身盛りを用意してくれる店もあれば、カウンターへ座った瞬間、別の意味で緊張が始まる店もあった。
そこで感じたのは…
一人飲みそのものが迷惑なのではない。
一人飲みと相性の良い店、そうでない店があるだけなのだ!
今回は、北海道や沖縄で一人飲みを重ねたコスパカが、それを参考に一人で入りやすい居酒屋の条件について考えてみたいと思う。
一人で居酒屋へ入るのは迷惑なのか?
先に結論から言うとあたりまえだが…
一人で居酒屋へ入ることは、迷惑ではない。
店が一名での利用を受け入れているなら、一人でも普通の客だ。酒を注文し、料理を食べ、店のルールを守って楽しめばいい。
だが、どんな居酒屋でも一人で快適に飲めるとは限らない。
テーブル席しかない店。
料理がすべて大皿で、一人では何品も注文できない店。
入店を断られなくても、店の造りやメニューが一人飲みに向いていないことはあると思う。
反対に、カウンターへ通され、小さな料理と酒を自分のペースで注文できれば、驚くほど快適に過ごせる。
重要なのは、「無理なく楽しめる店」を選ぶことだ。
北海道では一人だからこそ地元の日常へ混ざれた
北海道には、観光客へ向けて豪華な海鮮や郷土料理を並べる店がたくさんある。もちろん、そういう店で北海道を体験するのもめちゃ楽しいだろう。
だが、自分が一人で飲んでいて妙に落ち着いたのは、地元客が普段から使っているような居酒屋だったのである。
その代表格が、札幌の「第三モッキリセンター」。

13時になると年季の入った暖簾がかかり、中へ入れば大きなコの字型カウンターが広がっている。
昼から酒を飲む地元客。
目の前には刺身やザンギ、ニシンの切り込み、そしてビール。観光客向けに作られた北海道ではなく、普段からそこにある札幌の日常である。

初めて訪れたはずなのに、カウンターへ座って酒を飲んでいると…
「あれ、自分も道民だっけ??」
という謎の錯覚が襲う。
一人だから浮くのではない。一人だからこそ、カウンターにいる地元客の風景へ自然に混ざれるのである!!
そう…強制的道民。
一人客のための料理が分かりやすく用意されている店もとても心強いぞ。
すすきのの「目太間」には、名前からしてありがたい「刺身おひとり様盛り」がある。

一人飲みで困るのが、何種類も食べたいのに、一皿の量が多すぎる問題なのである。
最初の一皿だけで満足してしまう…その時点で試合終了である。だが、最初から「おひとり様」と書かれていればこんな嬉しいことはないのだ。
「一人でも飲んでって下さいね」
…と言う意図も伝わる。

目太間では、1,100円のせんべろを足がかりにして、一人用の刺身盛りと日本酒を楽しめた。
せんべろだけで帰るつもりが、刺身に吸い込まれていく…
まさに、せんべろ入場券。
コスパは崩壊するが、満足度は上昇していくのだ!
「崩壊ハイテンション」
というやつだ。
「瑠玖&魚平」では、何度か通ううちに、地元客の一人飲みを参考にした使い方へたどり着いた。
地元客はほぼカウンターに吸い込まれるといっても過言ではないだろう…!

この店のお通しは、複数の惣菜に加えて、魚のあらがゴロゴロ入った無料あら汁まで楽しめる。
そこへ熱燗と刺身を一品。
コスパカ的北海道セットの完成である。
もちろんビールと合わせても北海道の魚と酒をしっかり楽しめるのは素晴らしいぞ。

こうした店では、大量に注文する必要がない。地元客の使い方を観察しながら、自分なりの楽しみ方を作れるのも、一人飲みの面白さだ。
サクッと飲みたいなら、「大衆酒場 半立呑処 マイキー」のような店も使いやすいだろう。

普通の椅子と立ち飲みの中間にあるような、不思議な半立ち席…
長時間座り続けるには少しお尻が痛くなるのだが、瓶ビールとつまみを楽しみ、次の店へ向かうにはちょうどいいだろう。

一人飲みでは、居心地の良さだけでなく、
「一杯でも帰りやすいこと」
これは心から伝えるが、めちゃくちゃ大切なのである。
少量から頼める。カウンターがある。長居しなくても申し訳なさを感じない。この気軽さが、一人客にとってはありがたいのだ。
沖縄のせんべろは一人飲みのハードルを壊す
北海道では、地元の日常へ静かに混ざるような一人飲みが心地よかった。一方、沖縄のせんべろは空気が違う…
活気の中へ勢いで飛び込む。
そんな楽しさがあるだろう。
せんべろは、最初から酒と料理がセットになっている店も多い。
初めての店で、「何を頼めばいいのだろう?」と悩む必要がほぼない状態。セットを一つ注文すれば、すぐに一人飲みが始まるのだ。
那覇の「大衆串揚酒場 足立屋」は、その代表ともいえる店だった。

店内は昼からすでにめちゃくちゃにぎやか。地元客も観光客も、それぞれ好きに酒を飲み、串揚げや料理を楽しんでいる。
一人で静かに飲むというより、店全体の活気へ紛れ込むような感覚なのだ。

カウンターや立ち飲みに身を置けば、もはや一人客ではなく酒場を構成する一員になってしまうのである。
この気軽さこそ、沖縄のせんべろ文化だろう。
「川かみ鮮魚」では、さらに分かりやすい。

訪問時のせんべろは、刺身、本日の一品、ドリンク3杯という内容。これを一つ頼むだけで、酒も料理も揃ってしまう。

しかも、刺身は一人で楽しむには十分すぎる量。何をどれだけ注文するか考える必要もなく、その店の魅力をひと通り体験できてしまうだろう。
一人飲み完成セットである!
これなら初めて那覇を訪れた人でも、店へ入り、せんべろを注文するだけでいい。注文の迷いがなくなるだけで、一人飲みの難易度は驚くほど下がるだろう。
そして「垂れ屋」では、180円の石垣牛肉寿司を求め、翌日もう一度店へ行ってしまった。

一日目に食べられなかったものを、翌日、一人でサッと食べに行く。
誰かと一緒なら、同じ店にもう一度行くことを提案しづらい…
一人ならどうだろうか…?すべて自分の自由になるのだ。

食べたかったものを求め、同じ店へ再び向かう。気に入れば腰を据え、目的を達成したら次の店へハシゴする。
この自由さもまた、旅先で一人飲みをする魅力なのである。
安い店なら一人で快適とは限らない
ここで注意するべきなのは…
安い店=一人で快適に飲める店ではない
ということである。
たとえば、札幌・すすきのの「おばんざい みかん」。
料理は10円から用意され、刺身も驚くほど安い。白子鍋まで10円という、価格だけを見れば恐ろしいレベルの神コスパ店である。


どれもコスパのよいメニューだが、カウンターには「店員喉乾いてます」という案内がある。
もちろん、実際にドリンクを強要されたわけではない。普通に利用することもできる。
それでも一人でカウンターへ座っていると…
「この安さなら、スタッフさんへ一杯ごちそうしたほうがいいのだろうか……?」という別の戦いが、自分の中で始まるのだ。

グループでテーブル席に座っていれば、そこまで気にならなかったかもしれない。
しかし、一人でスタッフと向かい合うカウンターでは、店員との距離を強く意識してしまうことがある。
これは店が悪いという話ではない。店の雰囲気と、自分の性格や飲み方との相性である。
料理の安さ、酒の量、席の広さ。店員や常連との距離感。
すべてを含め、初めて一人飲みのコストパフォーマンスというものが完成する。
値段だけ安ければいいわけではない。
これが、コスパカとして一人飲みの店を選ぶときに、かなり重要な部分なのである。
一人で入りやすい居酒屋の共通点
一人飲みを重ねてみると、入りやすい居酒屋にはいくつかの共通点がある。
まず、カウンターや立ち飲み席があること。


次に、一人でも注文しやすい量の料理が用意されている。

そして、店頭やメニューで価格と仕組みが分かりやすいことである。

まとめると…
- カウンター席や立ち飲み席がある
- 少量の料理が用意されている
- せんべろセットがある
- 店頭でメニューと価格を確認できる
- お通し席料が事前に分かる
- 店員や常連との会話を強く求められない
このようになる。
すべてを満たしている必要はない。だが、複数当てはまる店なら、一人飲みの難易度はかなり下がる。
また、やはり重要だと感じるのが料理の量である。
カウンターがあっても、一品が3〜4人前なら、一人で楽しめる料理は限られてしまう。
反対に、テーブル席へ案内されても、一人用セットや小さな料理が用意されていれば、意外と快適に過ごせることもある。

席の形だけではなく、一人で酒と料理を組み立てられる店かどうかも大切だ。
ここを見れば、その店が一人飲みに向いているのか、かなり判断しやすくなるだろう。
また、札幌の「Nendo」のように、酒3杯とつまみ3品がセットになっていれば、注文に悩む必要もない。

セットで足りれば、そのまま会計。気になる料理があれば追加する。
ただし、追加しすぎてせんべろではなくなったとしても、それはそれで酒飲みの正しい敗北なのである。
一人飲みは決して寂しい飲み方ではない
一人で居酒屋へ入ることは、迷惑でも、寂しいことでもない。
誰かと話しながら飲む酒もいい。
だが、目の前の料理と酒だけに集中し、自分のペースで店と向き合う時間もいいものである。一人だからこそ店員と話せることもあれば、隣の客からウマい店を教えてもらうこともある。

逆に、誰とも話さず静かに飲んで帰ってもいい。
一人飲みに、正解などない。
大切なのは、自分と相性の良い店を選ぶこと。そして旅先では、一人で居酒屋へ入るからこそ、その土地の日常へ混ざれることがある。
正直最初に扉を開けるまでは、怖い。

だが、酒と料理が目の前に並んでしまえば、
一人で来てよかった。
そう思える瞬間が、確かにあるのだ。
だから、店へ入りたいと思ったのなら
「一人なんですけど、大丈夫ですか……?」
…と申し訳なさそうに聞く必要はないのである。
胸を張ってこう伝えればいいのだ。
「一人です!」
その街での新しい夜が始まるだろう。
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