本物を体験したい!
世の中にあるものには「最初」がある。
そこから真似され、派生し、時代とともに進化していく。だからこそ、その原点は誰もが知りたくなるのではないだろうか。
自分には一度、北海道の石狩で石狩鍋を食べてみたいという小さな夢があった。
鮭と野菜を味噌仕立てで煮込み、仕上げにイクラを乗せる。なんてことはない料理かもしれないが、その土地で地名のついた料理を食べるという好奇心は抑えきれない。
家でも作ろうと思えば作れるし、北海道なら時期によっては、いろいろな店で食べられそうな料理でもある。
だが、やっぱり「石狩」で食べたかった。
そして今回、石狩市にある「石狩鍋発祥の店」を予約することができた。
しかし、事態は思わぬ方向へ展開していく…。
まさか料理だけでなく、建物や雰囲気までホンモノだとは。
「金大亭」とは?
え??この店…?
…といった外観である。

モチのロンで石狩市にある。
大通・さっぽろテレビ塔近くの「中央バス札幌ターミナル」から石狩行きのバスに乗車。終点の「石狩」バス停で下車し、そこから徒歩約2〜5分ほど。
自分が訪れた冬は、店へたどり着くまでの雪道もなかなか大変だった……。

バス停が近いだけ、まだありがたいのだが……!

金大亭は1880年(明治13年)創業で、創業当時の建物が今も使われている。
かつては北前船の船主や商人たちも利用した料亭で、石狩が北前船でにぎわっていた時代を今に残す建物なのである。
完全予約制なのだが…
電話で予約した時、何度かブチブチと回線が切れ、電話対応にも独特な空気を感じた。
電話口での話の間や、周囲の静けさの中に響く女性の声も相まり…なんともいえない奇妙な空気があったのだ。
だが、この外観を見てなんとなく納得…。

とはいえ…ここで石狩鍋が生まれたと聞くと、不思議と納得してしまう。
世の中には、「発祥の店!」と大きく掲げ、観光地のようになっている店も多い。
そんな中、この店は建物からしてホンモノだと思う。
ホラーゲームの主人公のような気分で「金大亭」に入店
まるで初代PS版『バイオハザード』の扉を開けるときのような気分だったのだが……。
最初の扉を開けると、なかなかどうして…
老舗らしくてイイ感じ!!

…と思ったのも束の間。

ただのバイオハザードだった…
薄暗く、ほかの客の気配もしない。店の人の姿も見えず、建物の奥からガタゴトと音だけが聞こえてくる。
信じられるか?これでも昼の13時過ぎなんだぜ……?
すると、静かにおじいちゃんが現れた。
これは、ただならぬ空間へ来てしまったぞ…。

もはや石狩鍋のことはこの一瞬忘れていた。
東京にある体験型ホラーゲームのようなのである。
そして、案内され席へ通された……!
「金大亭」の鮭尽くしコースを堪能
案内されたのは、かなりデカい部屋。
温泉宿へ2〜3人で泊まるときに案内されそうな和室である。

すでに料理が準備されており、さっきまでの不安はどこへやら。
急に「そうだ、今日は石狩鍋を食べるんだ!」と我に返るのである。
この店はコース料理のみ。
今回予約したのは、3,500円のコースである。
※料金やコース内容、別途料金の有無は変更される可能性があるため、予約時にご確認ください。
訪問時はすべてのコースに石狩鍋が付いていたため、石狩鍋が目的なら一番安いコースでも十分だろう。
酒類は別料金といった感じ。
サッポロクラシックを注文し、さっそく料理の蓋を開けると……。

うお! イクラ!!!!
うれしいぞ!
やはり、鮭とは切っても切れない存在。それがイクラだ!
氷頭なます。

鮭の頭にある軟骨を薄く切り、大根などと甘酢で和えた北海道の郷土料理。
独特な鮭の風味と、コリコリとした食感が特徴だ。
ルイベ。

鮭を一度凍らせ、半解凍の状態で味わう、キング・オブ・ジャパニーズ鮭の刺身。
もともとは冬の寒さを利用した保存食で、凍らせることがアニサキスなどの寄生虫対策にもなっていた。
アイヌの人々から受け継がれてきた、先人の知恵を感じずにはいられない。

揃ってきた、揃ってきた。
もはや、札幌で大好きな寿司店「千晴鮨」のコクピットのようである。
焼き白子。

鮭の白子を焼いたものだ。
なかなか珍しい。
こういうものこそ、この店へ来なければ出会えない料理なのではないだろうか。
このあたりまで食べ進めると、北海道で受け継がれてきた、鮭を余すところなく食べる文化を体験しているような気分になる。
処理の仕方や空気感、味の質感。鮭という素材をそのまま、ありがたくいただく。
そんな歴史の味がするのだ。
洗練された小料理店なら、さらに臭みを抑え、現代的に食べやすく仕上げることもできるだろう。
だが、ここで味わえるのは、もっと素朴で力強い鮭の味である。野生的というべきか…!
この味が合う人と合わない人は、確実にいると思う。
焼き鮭

誰がなんと言おうと定番。焼き鮭である。
脂がたっぷりのった、食べやすい一般的なサーモンとは違う。鮭本来のクセを、ふんだんに感じることができる。
力強い味とでもいうべきか!今、歴史を食べている。そんな感覚になれるのだ。
すると突然、ふすまが開いた。
おじいちゃんが、お待ちかねといった顔で石狩鍋を持ってきた!
「金大亭」で石狩鍋発祥の味を体験

うひょおおお〜〜〜!!!
これが、石狩市で食べる本場の石狩鍋。
ここ金大亭から、石狩鍋が始まったとされている。
食べる前から、すでに感無量なのである!

さっそく食べてみると、味は結構あっさり。野菜と鮭の旨味を、やさしい白味噌の味が包み込む。
正直に言うと、豚汁の豚を鮭に替え、イクラを乗せたような感じである。だが、なんとなく、そういうものだろうとは思っていた。
発祥の味というのは、食べると意外に素朴だったりする。
味噌ラーメン発祥の味も、「まるで味噌汁に麺を入れたようで、意外にあっさりしている」と感じる人がいるかもしれない。
伝統や始まりの味とは、そういうものなのだ。
ビートルズやローリング・ストーンズも、現代の基準で聴けば、「演奏が粗い」などと言う人がいるかもしれない。
だが、そういう次元ではない。
今も語り継がれる音楽を生み出し、それまでになかった音楽を最初に鳴らした。
その発明こそが大切なのである。

そして今、この生きる伝説に出会えた。
東京から来て、雪道を歩き、さまざまな困難を越え、ようやくたどり着いた石狩鍋。
その瞬間は、長い物語の最後にエンドロールを眺めているようなのである。
「金大亭」の総評
後世まで残る伝説

もはやそれしか出てこない。
石狩鍋はもちろん、明治時代から使われ続けている建物。そのすべてを、実際にこの場所で食べることによって体験できる。

金大亭は、誰かに演出されたものではない、本物の体験型エンターテインメントといえるだろう。
バスに乗り、石狩の地へ降り立ったこと。

ホラーゲームのような、店内の独特な空気。

ルイベをはじめとした北海道の鮭料理から感じる、先人たちの知恵と歴史。

そして、主役の石狩鍋を食べた瞬間に駆け巡った感情。

自分にとって、そのすべてが「ホンモノ」だった。
最初に感じた違和感や怖さ、独特な空気の正体は、単なる「怖い」という感情ではなかった。
ただ、140年以上積み重なってきた歴史に圧倒されていたのである。
そう気づき、深い敬意を胸に、金大亭を後にした。
ごちそうさまでした!

店舗情報
店名: 元祖鮭鱒料理 割烹 金大亭
住所: 北海道石狩市新町1
電話番号: 0133-62-3011
営業時間: 11:00〜19:00
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